◆真昼の月◆

ヘルパーのお仕事、職人仕込みのレシピなどを綴ります。

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緑内障で徐々に視力を失ったS藤さんは、現在、完全に見えなくなった。
もう光も闇も見えない。
肌に感じる太陽の熱で、昼間なのか夜なのかを知る。
肌に感じる風で、湿気や天気を知る。

「夢を見るんだよね」
穏やかにコーヒーを飲みながらS藤さんが言う。
「田舎に行く夢なんだ。家族と一緒に」
列車に乗って田舎に行く途中、息子さんははしゃぎ、奥さんはにこやかに笑っている。
空は青く、水田には黄金の稲穂が揺れる。

「幸せな気持ちで目が覚めると、真っ暗なんだ」

その絶望は、どんなだろう。

夢の中ではカラーの世界が広がり、親しく懐かしい人の顔がはっきりと見えているのに、目覚めると暗闇――。


「僕はわかっているんだ。これが夢だって。だから目覚めるのがイヤなんだ」

けれども朝はやってくる。
そうして、真っ暗なS藤さんの1日が始まる。

視力障害者の移動支援で、私はHさんとJRに乗りました。
3人掛けの優先席の中央が空いていたので、そこへHさんを案内し座っていただき、自分はHさんの正面に立ちます。

いくつかの駅を過ぎた頃から、何か匂っているのに気が付きました。
――なんだろう。
あまり過去には嗅いだことの無い匂い。
いい香りとは決して言えない、どちらかといえば不愉快な匂いなのですが、その匂いの元が何なのか、全然思い浮かびません。

やがて大きな乗り継ぎ駅に着き、Hさんの右隣の人が降りました。
そこへ滑り込むように座ってきたのは、見た目にもはっきりとわかるホーム○スの男性。
大きな声で鼻歌を歌いながら、新聞を読んでいます。
それではっきりとわかりました。
この匂いは、彼が発しているものだったのです。

彼は私と背中合わせに立っていたので、私には彼の姿が見えていませんでした。
ただ匂いだけが漂っていたのです。

自分1人だったなら、車両内の場所を移動したかもしれません。
でも、全盲のHさんが一緒だし、今は仕事中です。
私はそのまま、Hさんの正面に立っていました。

そのうち、Hさんが私に呼びかけました。
「ねえ、かずよんさん」
「なんでしょうか」
「何か匂うよね? なんの匂いだろう」

「!」
私、間違いなく固まりました。

見えていないHさんは、私の返事がなかったので、聞こえていないのかと思ったようです。
さらに大きな声で
「匂うでしょ?」
と言うのです。
周囲のお客さんたちも、白い杖を足の間に置いたHさんを一斉に見ました。
「これ、なんの匂いかなぁ。僕の知らない匂いなんだけど。かずよんさん、わかる?」

こういう時、どう答えるのが良いのでしょう。
隣の席の男性は、鼻歌を歌い続けています。
トラブルになるのだけは避けなければなりません。
私は咄嗟に
「さあ、何の匂いでしょうね。私にもわかりません」と答え、
「ところでHさん、降りる駅は2つ先ですよ。切符はご用意されていますか?」と話を切り替えました。
「駅に降りたら、どこか立ち寄るお店などありますか? それとも真っ直ぐご自宅へお帰りになりますか?」
匂いの話題に戻らないように、一生懸命話しかけ続けました。
降りる予定の二駅区間のなんと長かったこと!

どうやら無事にご自宅までHさんを送り届け、列車内でのことを打ち明けました。
「話題を切ってしまってすみませんでした」と詫びる私に
「ああ、どうりで返事に困っていたんだね。困らせちゃってゴメンね」
と納得していただけましたが、本当に冷や汗をかきました。


もしもまた、あんなことが起こったら、どう対応するのが良いのでしょう。
考えるだけで、その難しさに頭を抱えてしまいます。

計画停電はここしばらく行われていません。
これは先日、14時過ぎから停電になった時のお話です。

S理さんのお住まいは、オール電化マンションの8階です。
先日訪問した時、ちょうど停電でした。
エントランスの自動ドアは開放されていたので入れましたが、インターホンは当然沈黙。
エレベーターは止まっているので、階段で上がるしかありません。
ひーひー、ふーふー言いながら、ようやくお宅までたどりつきました。

サービス内容は、買い物と調理。
近所のスーパーで夕食用の食材を購入し、帰宅後に料理します。

「地震から後、牛乳が買えないのよねぇ」
牛乳、納豆、ヨーグルト。
S理さん定番のこれらは、地震の後、一度も買えていないのだそうです。
「あったら買ってきてね。なかったら諦めるから」
スーパーに開店と同時に入れば、きっと品物はあるのでしょう。
でも14時からのサービスでは、どの品物も、ほとんど売り切れてしまっているのです。

その他の野菜や日常品などをメモして、階段をぐるぐる降り、スーパーへ向かいました。

ところが、閉まっているんです。

計画停電中は、営業を一時中断し、停電解消後に営業再開いたします
そんな張り紙がしてありました。


さて、どうしましょう。
もう一度、S理さんのところへ戻って指示を仰ぐと、サービス時間が足りなくなってしまいます。
ヘルパーが直接利用者さんに電話することは禁じられていますから、事務所を通して指示してもらうか……。

ふと、あたりを見回すと、生鮮品も多少置いているコンビニが見えました。
あちらへ行ってみよう。とさっそく店内に入ってみました。

やはり牛乳も納豆もヨーグルトも売り切れでしたが、その他のものは結構買うことができ、私は再び8階まで階段を上ってS理さんに届けました。

その日の調理依頼は、きのこのオイスターソース炒めとセロリとハムのスープ、大根と水菜のサラダでしたが、IHクッキングコンロでは、停電の間、調理はできません。
戸棚から卓上ガスコンロを出して、それでお料理します。
また、このマンションは、水を屋上までポンプでくみ上げるタイプなので、停電だと断水もします。
料理用の水は、S理さんがあらかじめ汲んでおいてくれたものを使用。
ひとくちしかありませんから、一品ずつしか作れません(サラダは加熱が必要ないので、同時進行で作りました)。


サービス時間内ギリギリに調理終了。
どうにか無事に仕事を終えて階段を下りましたが、非常に疲れました。

で、この次のお宅は、同じく停電中のマンションの5階……。
足の筋肉痛は、当分おさまりそうにありません。トホホ……。

現場は混乱しています。
まさか電車までこんな形の運休になるなんて考えていませんでした。
運転区間は今までと同じで、間引き運転になるんじゃないか、と思ったんです。

停電もグループによっては、1日2回あるというし、そうなると3時間ではないと思われます。

在宅で、助けを必要としている利用者さんの元へ、私たちは派遣され、家事援助や身体介護を行います。
停電による断水があれば、お湯による清拭も、調理も、入浴介助もできません。
まして、酸素吸入器や痰の吸出機、ネブライザーなどを必要としている人はどう対応したらよいのでしょう。
ベッドの高さの調節や、ギャッチアップ、電動マットレスだって動きません。
オール電化の家は、ガスもありません。
暖房がないと、急な気温変化に弱い血圧疾患者には厳しいことになるでしょう。

施設だって、停電の対象ですよね。


私たち、元気で何の心配もない立場の者は、この危機を乗り切るための節電や停電ならガマンしましょう。
いつ回復するかもしれない停電ではなく、覚悟の上で停電を迎えるのですから、なんとでも対応しましょう。
でも、電気がないと健康を損なう恐れのある人からまで電気を奪わないで欲しい。

しかも、グループ分けの詳細があまりにも不親切です。
たとえば私の地域は、なんと1グループから4グループにまで名前が入っていました。
防災放送では「停電があるから東京電力にお問い合わせください」としか言わないし、東京電力のHPにも、その大雑把なグループ分けしか書かれておらず、電話をすればちっとも繋がりませんでした。

仕方なく、今日最寄の東京電力へ行ってきました。
長い行列だなぁと思ったら、1人ずつ個別対応でした。
「番地でグループがわかるような一覧表はないのですか?」と聞いてみましたが、ないのだそうです。
とりあえず、自分のマンションがどのグループに入っているのかだけ確認しました。
停電になる時間帯は変動するので、これからはそのグループの停電が何時からなのかだけ注意すればよいそうです。

問題は仕事先です。
そこが何グループで、何時から停電なのか。
それを知る術がありません。

被害地で心細い思いをしている人のために、電気を送ってあげたい。
だから、計画停電を否定や糾弾はしません。
でももっとなんとかならないのでしょうか。

在宅の高齢者と同じように、私も不安です。

NPO法人メディア・アクセス・サポートセンター主催のバリアフリー映画鑑賞会に行ってきました。
これは埼玉県障害者アートフェスティバルの一環で、映画のほかに、美術、舞台芸術、セミナーというのが行われていました。
上映会は4日間。

12月18日、19日
 SPACE BATTLESHIPヤマト
 武士の家計簿
 最後の忠臣蔵

1月8日、9日
 SPACE BATTLESHIPヤマト
 最後の忠臣蔵
 相棒Ⅱ


という上映作品です。

このうち、1月8日のSPACE BATTLESHIPヤマトを鑑賞してきました。

映画館という場所は、視力障害者をガイドするのに、難しいことが多くあります。
まず、暗い。
劇場内の、列と列の間や通路が狭く、2人並んで歩けない。
シネコンなどは、小さい部屋が複数あり、避難経路を確認しにくい。

それらを、どんな風にクリアしたらいいかも心の中で検証しながら映画館へ行きました。

この日を楽しみにしていたに違いない障害者の方々が、ロビーに大勢いました。
盲導犬と一緒の方、ヘルパーと同行の方、手話で会話するカップルや親子。
みな表情が明るく、会話がはずんでいます。

チケットのもぎりをする場所に机が置かれ、そこでイヤホン付きのFMラジオを借りました。
panasonic RF-ND180Rは、小さくて、視力障害者が操作をするには不向きです。
ですから、渡された時には、チャンネルがロックされ、音量、イヤホンの長さも調整済みとなっています。
上映が始まるまでは、その映画の紹介が繰り返し流されていますが、映画が始まると同時に、音声ガイドに切り替わります。

視力障害者にとって、沈黙は不安を呼びます。
普段何気なく見ている映画でも、沈黙のシーンは多くあるんですよ。
映像では、その沈黙の中で多くを表現し、沈黙だからこそ伝わる雰囲気というものがあるのですが、視力障害の方には、それがひとつも通じません。
予告編が終了すると、本編が始まるまで沈黙があります。
映画の配給会社や制作会社のテロップが流れているのですが、音楽も音声もありません。
ですから、ガイドはここから始まるんです。

東宝株式会社、SEDECインターナショナル、ロボット

淡々と読み上げられるこれらの会社名が始まると、「いよいよ本編だな」とわかるわけです。


ヤマトは、私が学生時代にどっぷりはまった、大好きなアニメです。
目を閉じていても、その形やキャラクタの顔、戦闘シーンなど、ストーリーごとに思い出すことができます。
でも、ヤマトを知らない視力障害者には、どんなふうに感じられるのでしょうか。
音声ガイドが「ヤマトの何百倍もある大きな艦から――」と言っても、そもそもヤマトの大きさを想像することができるのでしょうか。
場面が切り替わるごとに「艦長室、地球の司令室、格納庫」と入る説明は、うるさいですが、これがないと、どこで誰が何をしているのかわかりません。
必要ですが、興ざめなのは違いありません。

基本的に、ガイドとセリフがかぶることはないので、説明が入るタイミングは難しく、そう多くはないのです。
そうなると、少ない言葉で的確に映画を表現する、すぐれた音声ガイドを制作することが重要でしょう。
それって、すごく難しいことだと思います。

とはいえ、来場した方の多くは、映画終了後にこやかに帰宅の途につきました。
耳からの情報だけで、せいいっぱい想像力を働かせ、頭の中にその映像を思い浮かべた148分間。

映画の感動をみんなのものに
NPO法人メディア・アクセス・サポートセンターの取り組みが、さらに充実して、多くの人が映画館で感動を味わえたらいいなと思います。



字幕付き鑑賞は別エントリーにします。

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