◆真昼の月◆

ヘルパーのお仕事、職人仕込みのレシピなどを綴ります。

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弱視のI男さんと片道2時間の通院介助を行う。
自宅から駅まで、手押し車を押しながら30分。
強風の中、I男さんは何度も風に押し戻されそうになり立ち止まる。
背中を支え励まして、ようやく駅に到着。
手押し車を駐輪場に預けて杖を持ち、ここから電車を乗り換えながら1時間。
最寄り駅からは杖に頼って30分の徒歩である。

遠い。もっと近くの病院はないのか。と誰もが思うだろう。
だがI男さんは左に軽い麻痺があり、口がうまく動かせない。
舌も思うように動かない。
こんな状態で義歯を作成してくれるような専門歯科は、やはり大学病院に頼るしかないのだそうだ。

風が冷たく強かった分、いつもより疲労を感じた。
待合室の椅子に座っていただいたI男さんから診察券を受け取って、自動外来受付け機に通した。
受診科とドクターの名前が表示され、確認ボタンを押せば受付け票がプリントアウトされてくる。

「あれ?」
「どうしたの?」
どうしたも何も、今日は13時にヘルパーが迎えに行き、15時から診察だと聞かされていた。
それなのに、受付け票には14時から診察、と表示されている。
「I男さん、私は会社から15時診察予約と聞いていましたが、間違いありませんか?」
「多分間違いないよ。前回通院に付き添ってくれたヘルパーさんが、予約時間を大きな字で紙に書いてくれたんだけど、今日の15時ってなっていたから」

I男さんには病院から渡される小さい文字の次回予約票が見えない。
それをヘルパーに渡して「忘れないように、日付と時間を大きな字で書いて欲しい」と希望される。
油性の太い黒マジックで便箋にヘルパーが書いた物を目に付く場所に張っておく。
「今は持ってきていないけど、家に帰れば壁に張ってあるよ」
「前回同行したヘルパーは誰だったのですか?」
「男性のMヘルパーだよ」
名前を聞いて、心の中で舌打ちした。
社員でサービス提供責任者のくせに、ミスが多くて気配りの出来ない人だ。
仕事がかさむと作業が雑になり、ミスを指摘すると逆ギレするような男だ。
利用者に対しても、ヘルパーに対しても、思いやりや愛情がないことが丸見えなヤツなのだ。
これは、派遣ミスかもしれない。と、名前を聞いただけで思ってしまった。

受診科の受付けで確認すると、やはり予約は14時で間違いなかった。
「せっかく来たのですから看ていただきたいのです。
待ちますから、ドクターにお願いしてもらえませんか」
到着したのは14時35分。予約時間はとっくに過ぎてしまっているが、このまま帰るのはあまりに気の毒だ。
しかし残念なことに、ドクターはオペに入ってしまうのだという。
オペのために今日の最後の外来予約がI男さんだったのだ。
何時に終わるかわからないので、次回予約だけして今日は帰ってもらいたい。
受付け嬢の言葉に、I男さんと私は呆然とした。

「こちらのミスです。本当に申し訳ありませんでした」
I男さんに平謝りに謝った。
しんどい思いをしてようやく病院に来たのに、まったく無駄足になってしまったなんて、申し訳なさすぎる。
会社には電話ですぐ事情を説明した。
電話口でもう1人のサービス提供責任者が緊張しているのがわかった。
「今日と明日はMさんが休みなので出社していないんです。でも、確認してみますから!」

「仕方ないよ。なんだかどっと疲れちゃったから、ちょっとコーヒーでも飲んで休憩しよう」
I男さんは優しい。I男さんは絶対に人を責めない。
いつもニコニコと感謝してくれる温かな人柄だ。
そんなI男さんの疲労を考えただけで泣きたくなる。

「もしかしてこれまでも、こんなミスがあったんじゃないですか?」
悪口は言いたくない、というI男さんに思い切って聞いてみる。
「悪口なんかじゃないです。ミスはきちんと報告して二度と再発しないようにしておかくべきです。
でないとまた、他の利用者さんにだって迷惑がかかるかもしれません」

そうして、以前にも派遣ミスがあったことをI男さんは教えてくれた。
それは私にとっては身も凍りそうな怖い話だった。

ヘルパーが迎えにくるはずの時間になっても、誰も来ないのでI男さんは会社に電話をかけた。
Mさんが出て「かずよんさんが訪問する予定になっています。来ていないんですか!? すぐに携帯に確認の連絡を入れますから、出かけないでお待ちください」とMさんは応えたと言う。
再びかかってきたMさんからの電話で
「かずよんさんは訪問できないことがわかりました。責任を取って僕が行きます。
1件訪問を抱えているので、終わったら合流しますから」と返事だったそうだ。

待って待ってよ。どうしてそこで私の名前が出てくるの?
「それ、いつの話ですか?」
「3月27日だったよ」
「私は帰省してました。休みの申請は2か月前からしていて、とっくに許可をもらっていましたよ」
そういえば3月27日の朝、Mさんから携帯に電話がかかってきたっけ。
「かずよんさん、今日の9時からの仕事、どうなっているんですか」って。
「はぁ? 私は帰省のために休みをいただいていますけど」と返事をしたら
「あ、そうでしたね。すみません」と電話は切れた。
あの電話は、I男さんのサービスを私が引き受けていたと勘違いした電話だったのだろう。

「じゃあI男さんは、私がすっぽかしたと思っていたんですか?」
「かずよんさんのことだから、すっぽかしはないだろうけど、何か重大なことが起こってしまって来られなくなったのかなぁと思ったよ」
えええーっ! 信じられない!

「でも、訪問の仕事を終えてから合流って、何時にどこで合流したんですか?」
「診察時間に間に合わなくなると思って、僕は1人で病院に行ったんだよ。診察を終えて待合室で合流したんだ」

床が崩れたような気がした。
電車とホームの間がどのくらい開いているのか見えないI男さんを、
風が吹いたらよろけて車と接触してしまう危険のあるI男さんを、
握る力が弱く、階段の手すりに頼れないI男さんを、
たった一人で通院させたのか!

何てことをしたんだ! もしも事故が起こっていたらどうするつもりだったんだ!
しかも、私のせいにしていたなんてー!

私なら速攻でクビにする。
でも会社は人手不足だから、始末書ですませてしまうんだろう。
こんな男が上司だなんて、つくづく恐ろしい。
きっちり反省してもらいたい。














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