◆真昼の月◆

ヘルパーのお仕事、職人仕込みのレシピなどを綴ります。

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生まれながらに全盲のMさんは、幼稚園を卒園すると、盲学校の寄宿舎に預けられた。
盲学校は県にひとつしかなく、遠方に住む多くの視力障害児は寄宿舎で過ごしながら学ぶのだそうだ。

週末に帰れるような距離ではなく、週末ごとに親が会いに来てくれるような裕福な家庭でもなかった。
Mさんは毎日毎日、母親を思い、家族を思い、家庭を思って寂しく暮らしていたが、ようやく夏休みが訪れた。
母親が迎えに来てくれて、長い夏休みを実家で送る。
それはとても幸せな日々だった。
5人兄弟の末っ子だったMさんは、兄たちに可愛がられ、一緒にプールへ行ったり、すいかを食べたりすることが嬉しくて仕方なかったと話してくれた。

けれどもある日、Mさんはツクツクボウシの鳴き声を聞いてしまう。

夏が終わるよ。秋が来るよ。
ツクツクボウシはまるでそう人々に告げることが使命のように、懸命に鳴き続ける。
誰にも教わることなく、何年も土中に埋もれながら、ツクツクボウシは地上に出たとたんに、己の役割を忠実に果たそうとする。
今年も僕らが鳴くよ。夏は終わるよ。秋の支度をしておくれ。

見えなくても初秋の空気を感じる。
見えなくても日差しの変化はよくわかる。

秋が来る。Mさんは痛感し、悲しみに暮れる。
秋が来る。寄宿舎に戻る秋が、来る。

「今でもツクツクボウシは嫌いだ」
あの夏の日の、悲しさと切なさを思い出しながら、Mさんはアイスコーヒーにクリームと砂糖を入れた。
少しもこぼすことなく。
喫茶店の外では、ツクツクボウシが鳴いている。














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